金融コラム ドルコスト平均法の「ワナ」 (2016/06/17)

ドルコスト平均法は”リスク”を低減しない! ?

「ドルコスト平均法を用いることにより、”リスク”を抑えることができます――」このようなフレーズは、このレポートを見ている間にも全国各地で使われているのかもしれません。「貯蓄から投資へ」という理念のもとで、未経験者を金融市場に引き込む絶好の口説き文句の一つがドルコスト平均法を用いた説明です。

 では、ドルコスト平均法とはどのような手法なのでしょうか。QUICKの定義は「定期的に、継続して、一定金額ずつ金融商品を購入する投資手法のこと」です。つまり、株数(口数)に注目するのではなく、金額に着目した積立類似の投資手法です。一定金額ずつなので、株価が下落すればそれだけ、多くの株数を買うことになります。

 そのメリットとしては「定期的に定額ずつ投資することで、平均取得単価が安くなる」ということがよく言われています。その副次的な効果として、時間分散投資による価格変動リスクの低減という恩恵も受けられると説明されているそうです。

 その他にも投資未経験者の心理的障壁として、「元本割れのリスクを冒したくない」という要素が挙げられ*¹ます。そのような方々向けに、「ドルコスト平均法は相場の予想が不要であり、下値で買い増しできるという意味で株価の下落を好意的に受け取ることができる」という趣旨の説明をすることで、元本割れの恐怖心を和らげる狙いがあるようです。

 しかしながら、「リスク」という言葉が不明確であるため、どのような意義でそれを低減することができるのかが明らかではありません。そのため、リスクの意義を精査する必要がありそうです。

リスクとは不確実性のこと

株式投資におけるリスクの定義は、「期待している収益に対するブレ、つまり、不確実性のことをさす」とされています。年5%の投資利回りを期待していたのに、年3%にとどまってしまった場合や、年8%のように、期待利回りを上回った場合も含みます。5%という期待していた結果が多かれ少なかれ得られていないということがリスクの本質なのです。

 そして、期待収益率は金融商品が決めるものであり、投下資金の分散によって当該金融商品自体のリターンは左右されません。たとえば、カジノにおけるルーレットを想像してください。「赤」に1ドルをかけようと、1000ドルをかけようと得られるリターンは0%か200%のどちらかで、期待値は約95%のまま変化しません。金額を時間で分散したからとって、金融商品そのもののリスクをコントロールすることはできないのです。

 この観点から、株式投資について「ドルコスト平均法を用いることにより、”リスク”を抑えることができます――」は明らかに間違っていることが分かります。したがって、「時間分散投資による価格変動リスクの低減」というメリットは、「総資産額に対する不確実性を低減させる」という意味で用いられていると考えられます。

ドルコスト平均法のワナ

ドルコスト平均法の売り込み文句を見ると、ほとんどが底値を付けて反発したような形のチャートが用いられています。そこで今回は、QUICKのデータベースを使い、実際に起こった銘柄の値動きをいくつか取り上げ、本当にドルコスト平均法が有利になるのかを検証してみました。

確かに、上記の図を見ると、一回で全額購入するよりも平均取得単価が低くなっています。始まりと終わりの価格が一緒であったり、始値から半分以下になってもドルコスト平均法(DCA)が利益になっているという点で非常に心強く思われます。しかし、以下のパターンの際には十分注意を払わなければなりません。

左の図のように、いったん株価が上昇して元の水準まで戻った場合、ドルコスト平均法では上値も買い増すため株価が最終的に「変わらず」となった場合でも損失を被ることがあります。また、右の図のように順調に右肩上がりした場合も平均取得単価が高くなってしまい、得られる利益が少なくなってしまいます。

最後に、株価が0円になってしまった場合ですが、これはドルコスト平均法がわずかに不利です。理由は2点あります。まずは、手数料がかさむ点でマイナスが増大してしまう点です。一回買いであればスケールメリットが働き手数料も安く抑えられますが、ドルコスト平均法では細かく複数回にわたって買うため、手数料が相対的に大きくなってしまいます。この点で、ドルコスト平均法は一貫して下がった時に不利になります。
 さらに、売買戦略の面でも不利になります。なぜなら、ドルコスト平均法は株価が下がった後上がることを半ば前提とした手法であるため、株価が下落しても損切をしない方向に強くバイアスがかけられるからです。一回買いの場合はリスク許容度や、他の銘柄の方が利益を上げられるとわかればポジションをクローズすることも難しくはないですが、ドルコスト平均法の場合下がったら買いを入れなければ手法として成り立ちません。そのため先行きが暗くなった場合でも買わなければならないという事態にも陥りやすくなるのです。

この問題に対応するには明確なEXITルールが必要です。なぜなら、この手法は「株価が下げてもいくらか戻れば利益になる」というものであるため、下げ続ける銘柄をつかんでしまった場合期間を置くごとに損失の拡大幅が広がってしまうからです。これを避けるには、ドルコスト平均法であっても利食いと損切のルールを設けることが必要です。

投資とは安心感にお金を投じることではない

これまでに検討して判明したドルコスト平均法の特徴をまとめてみましょう。まず、ドルコスト平均法は投資対象のリスクを低減しません。(投資金額を分けることで損失が小さくなる場合がありますが、反対に逸失利益も大きくなるからです)そして、多数回の買い付けには1回買いに比べ余計に手数料がかかることになります。ここから導き出される結論は、「ドルコスト平均法は一回買いに比べて有利でも不利でもないどころかコストの分だけ負けている」です。

 そのコストで買っているのはまさに「相場の予想が不要で、高値つかみしなくて済む」という見せかけだけの安心感です。安心感を得るために投資をするのでは自己矛盾に陥ってしまいます。皮肉にも、ドルコスト平均法が有利である。ないしはリスクを抑えるという趣旨で初心者にこの手法を進めているのは、プロの金融マンやFP技能士です。毒にも薬にもならない手法をそのように説明して投資を誘引することは、ただの水を「美容・健康に良い」として高額で販売する悪徳業者と何ら変わりはありません。

結局、ドルコスト平均法という手法自体が悪いのではなく、この手法に対する不適切な説明が横行していることが投資を始める人に誤解を生じさせてしまうのです。「半値になっても儲かる」という場面だけを切り取った説明で、投資に対するリスクを軽視させてしまう。これがまさにドルコスト平均法の”ワナ”です。

「 投資信託に関する意識調査 」 2012年2月28日 日興アセットマネジメント株式会社

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