金融コラム 「中国経済は『中進国の罠』にはまるか」丹羽連絡事務所・中島精也氏 (2015/12/18)

話し手:丹羽連絡事務所 チーフエコノミスト 中島精也氏(※本記事は2015年12月10日にQUICKで配信された記事です)

【景況判断】現状(3カ月前比):やや良い 先行き(3カ月後):やや良くなっている
GDP予測:15年度0.9% 16年度1.1%
【金 利】短期:TIBOR3カ月 0.17%
長期:10年物新発国債 0.35%
【円 相 場】 125円/1ドル
【株 価】22,000円/日経平均
*GDP予測値は実質GDP成長率、前年比%
*長短金利、円相場、株価は3カ月後(2016年3月末)の予測値

1.景気見通し:「回復はするものの力強さに欠ける」

本年7-9月期のGDPの伸びは前期比-0.2%、年率-0.8%と2四半期連続のマイナス成長だった。定義によれば日本経済は景気後退入りしたことになる。しかし、需要項目の中身を見ると、在庫投資の成長寄与度が-0.5%と大きくGDPの足を引っ張った。在庫のマイナスを除けば前期比0.3%、年率1.2%成長となるので、これが実感に近い。あまり表面的な数字に振り回されることはない。ただし、今年4月以降の景気指標の動きを振り返ると、正直言って期待はずれであったのは否定できない。
 第1に消費の回復が鈍い。雇用は10月の雇用者数が5,704万人で前年同期比1.3%プラスの75万人増。失業率も3.1%の低水準に改善している。それなら労働需給の逼迫で賃金が上昇しなければならないが、そうなっていない。10月の所定内給与の伸びはわずか0.1%、その他の残業代や特別給与が押し上げても、現金給与総額は0.7%の伸びに過ぎない。幸いと言って良いのか、消費増税効果の一巡から物価の伸びが落ち込んだために、実質賃金は0.4%とプラスだが、消費を支えるに迫力不足は否めない。
 第2は輸出の弱さである。10月の輸出数量の伸びが-4.6%と、実に本年5月以降プラスの月がない。円安で輸出増を当てにしていた当局は全く当てが外れてしまった。円安でも企業はドル建て価格を下げないので、輸出数量が伸びないのは道理だ。結局、円安による為替差益で輸出企業が潤うだけだった。それならもっと賃上げを、と安倍政権のイライラが増すのみである。
 鈍い消費と弱い輸出を考慮すれば、第3に企業が設備投資に慎重な姿勢を取るのはうなづける。結局、安直にマクロ政策で設備投資を刺激しようとしても、成長期待が高まらなければ、企業は投資をしない。アベノミクス第3の矢「民間投資を喚起する成長戦略」をスピード感を持って果敢に実行するしか手はない。景気は緩やかな回復軌道を辿ると思われるが、力強さに欠けるのが問題だ。

2.金融環境:「日米ともに金融政策の大幅な変更は予想し難い」

12月15?16日に米連邦公開市場委員会(FOMC)が開かれるが、11月の雇用統計は非農業雇用者数が前月比21万1千人増と好調持続を示したこと、またイエレンFRB議長が「FOMCは年内の利上げが適切だと指摘してきた」と利上げを強く示唆しており、利上げという出口戦略第二幕がスタートするのは間違いない。市場の関心は既に年明け後の利上げペースに移っている。FRBの2つの使命の1つである雇用の最大化は達成されているが、もう1つの物価の安定についてはPCEデフレーターが1.3%の伸びと2%目標から大きく乖離しており、賃金の伸びが加速しない限り連続利上げとは行かない。よって、ドル高の進行は限定的だろう。

  FOMC翌日の12月17-18日には日銀政策決定会合が開かれる。これまで黒田総裁は「先行きは好調な企業業績から設備投資も緩やかに増加し、消費も雇用・所得環境の着実な改善で底堅く推移する。期待インフレは長い目で見れば上昇する」と景気、物価共に強気の見方を述べており、額面通りに受け取れば、追加緩和はないということになる。しかし、昨年10月31日に期待インフレの低下を回避するとして、突然の追加緩和(バズーカ2)に踏み切った事例もある。今回、日銀が動かないとなると、むしろ円高に振れるリスクもある。それを回避するため、何らかの小規模な政策変更、例えばJ-REITやETFの購入規模の増大などは心積もりしておいたほうが良さそうだ。いずれにせよ、日米ともに大きな金融政策の変更は考えにくいので、円相場も一気に130円を目指すような劇的な動きは予想し難い。

3.注目点:「中長期的に正念場を迎える中国経済」

中国の今年7~9月期のGDPは前年同期比で6.9%と、ついに7%割れとなった。低調な中国経済が続いている根本原因は地方政府の過剰債務、国有企業の過剰設備、その両者に貸し込んでいる銀行の不良債権にある。振り返ると、リーマンショック後の4兆元の景気刺激策が地方経済に大きな歪みをもたらした。景気対策に必要な資金は地方政府傘下の融資平台が債券を発行して集めた。また、信託会社は購入した融資平台債券を裏付けとした理財商品を組成して投資家に売却した。この悪名高きシャドーバンキングを通じて得られた資金が採算性を度外視して、不動産開発、造船、鉄鋼などの投資に回った結果、地方経済のバランスシート悪化は深刻化し、今後数年間はバランスシート調整で景気回復が望めない。

 加えて長期的視点から中国経済がいわゆる「中進国の罠」に直面している点を指摘しなければならない。中国経済の発展は安価で豊富な労働力を武器に先進国から直接投資を呼び込んだことで説明される。国内の労働力の高い伸び、外資に依存した資本ストックの急増、外資に付随する高い技術による生産性の伸びの3つが中国の高成長を実現させた。しかし、一人っ子政策の影響で、今後は労働力の伸びはマイナスへ転換する。外資も2000年比6倍にも跳ね上がった賃金や元高を嫌気して、ミャンマーやベトナムなど新天地に向かっている。そうすると、外資依存の技術や生産性上昇にも限界が出てきた。

これまで多くの後進国が中進国(中所得国)までは発展するが、先進国になれなかったのは、外資依存の成長モデルに安住して、自前の独創的な技術開発に成功しなかったからだ。同じような道を歩んで来た中国は今、正に「中進国の罠」に直面しようとしている。決して楽観視できない。国際競走に勝てるだけの技術開発力を有する国へ変身できるか否か、これからが中国経済の正念場と言えるだろう。

<中島精也氏略歴>

1947年生。72年横浜国立大学経済学部卒、伊藤忠商事入社。日本経済研究センター出向、独ifo経済研究所客員研究員(ミュンヘン駐在)、九州大学経済学部大学院非常勤講師、伊藤忠商事チーフエコノミストなどを経て、2015年4月より現職。著書に「傍若無人なアメリカ経済」(角川新書)、「グローバルエコノミーの潮流」(シグマベイスキャピタル)、「アジア通貨危機の経済学」(共著、東洋経済新報社)。日経産業新聞「眼光紙背」に寄稿、ifo経済研究所”World Economic Survey”のメンバー、PHP総研のグローバルリスク分析プロジェクトのメンバーなど。

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