金融コラム 「フィナーレは盛大に~曲芸飛行でイエレン議長が向かう先はバブルかクラッシュか?」大和総研・小林俊介氏 (2015/11/20)

話し手:大和総研 エコノミスト 小林俊介氏(※本記事は2015年11月12日にQUICKで配信された記事です)

【景況判断】現状(3カ月前比):変わらず 先行き(3カ月後):やや良くなっている

GDP予測:15年度+0.7% 16年度+1.7%

【金 利】短期:横這い TIBOR3カ月 0.17%

長期:横這い 10年物新発国債 0.30%

【円 相 場】 123円/1ドル

【株 価】21000円/日経平均

*GDP予測値は実質GDP成長率、前年比%

*長短金利、円相場、株価は3カ月後(2016年2月末)の予測値

1.景気見通し:「踊り場から内需主導の緩やかな回復へ」

日本経済は輸出の停滞を端緒とした踊り場局面に置かれている。世界的に景気が停滞する中、資本財・素材の需要の伸びは期待しがたい。そしてこれらを主力とする日本からの輸出は低迷を続けるだろう。過剰生産能力を抱える中国向けはもちろん、米国向けも「ドル高・原油安」で企業部門の収益が弱含む中、回復までには時間を要するとみている。さらに輸出向けを中心とした出荷の伸び悩みを受け在庫が積み上がってきたことから、生産調整がスタートしている。当面の日本経済は足踏みを続けるだろう。

しかし、先行きの日本経済は緩やかな回復基調に復するとみている。まず外需は最悪期を過ぎつつある。「ドル高・原油安」による米国企業部門の悪化モメンタムには歯止めがかかり始めた。中国向け輸出も、消費財を中心として底入れの兆しが見え始めつつある。加えて内需が回復・拡大に向かう。まず消費については、「消費増税、円安・原油高を受けたインフレ、伸び悩む名目賃金」という三つの押し下げ要因が今年度に入ってから一巡し、解消されつつある。実質所得環境の改善は、タイムラグを経ながらも家計消費を押し上げていくだろう。設備投資についても、「ソフトな」分野を中心に堅調な推移を期待している。もちろん輸出停滞を端緒とする生産鈍化・低稼働率を背景として、機械受注統計等が示すようにハコモノや機械など能力増強関連の「ハードな」設備投資は振るわない。しかし短観などで確認される企業の設備投資意欲は強く、事業法人との面談等を通じたボトムアップでもITや研究開発関連の「ソフトな」設備投資に対する予算は拡大傾向にあるとの感触を得ている。これは「人手不足」が底流で続く中、企業が対応策として「賃上げ・雇用拡大」よりも「省力化・高付加価値化」を優先させている結果である。日本経済が完全雇用に接近する中、こうした「ソフトな」設備投資には持続的な伸びを期待できるだろう。

2.金融環境:「フィナーレは盛大に―利上げペースは極めて緩慢、流動性相場の最終局面へ」

流動性相場はまだ終わっていないと判断している。米国の利上げのペースは、市場予想のコンセンサスと比較して遥かにマイルドなペースにとどまるだろう。まず米国経済の見通しであるが、短期の景気循環から判断して「息切れ」の局面が近づいてきている。足下の米国経済を支えているのは家計消費であるが、これは「ドル高・原油安」により企業から家計に対して実質的な所得移転が発生しているためであり、その効果はじき剥落する。中長期的な景気循環から判断しても、過去5年以上にわたって設備投資の伸びが経済を牽引する「資本ストックの蓄積局面」に米国経済はあったわけだが、結果としてこれ以上の設備投資の拡大余地はあまり残されていない。米国経済は「成熟化」のフェーズに入っている。

こうした景気要因に加え、「技術的」制約が利上げのペースを抑制する。Fedには2.5兆ドルを超える莫大な準備預金が残されている。にもかかわらず「利上げ」を行うためには、超過準備に対する付利を引き上げなければならない。そして100bpの利上げをするためには250億ドル、200bpであれば500億ドルの財政負担が毎年新たに発生することになる。このように莫大な負担を強いる「利上げ」を本格的に行っていくという選択は、政治的にも許容され難いだろう。従って数回の利上げの次の一手はFedのバランスシート圧縮であり、本格的な利上げはその先となる。結果としてイールドカーブの形状は、①ベアフラットニング⇒②(極めて緩慢な)ブルスティープニング⇒③(遠い先の)ツイストフラットニング、という三段階での変遷を辿るだろう。

懸念されてきたよりも米国の金融政策が緩和的なものにとどまることは、新興国経済にとって僥倖(ぎょうこう)だ。これまで米国経済の見通しが強すぎる結果として国際的に金利が上昇する中、新興国からは投資資金が流出し、強制的に金融引き締めに追い込まれ景気が悪化するという「逆デカップリング」が発生していた。しかし現在は米国の金融引き締めに対する懸念の後退から新興国が置かれている環境は改善し、資金流出抑制よりも景気回復を優先できるという「コンバージェンス(収斂)」の局面に入っている。そして「米国の低金利継続(=バリュエーションの高止まり)」と「新興国経済の底割れ回避(=ボラティリティの低下=リスク許容度の改善)」の二つの好材料が揃う中、株式市場では流動性相場が継続するだろう。

3.注目点:「曲芸飛行でイエレン議長が向かう先はバブルかクラッシュか?」

リスクの本丸は、やはりFedだ。Fedは既に「バランスシートの縮小は利上げを開始してから行う」と公式な方針を発表している。逆に言えば、たった一度でも利上げした瞬間から、いつ国債やMBSの需給が悪化し始めてもおかしくない。結果としてタームプレミアムとリスクプレミアムが拡大し、世界中の全資産市場が劇的な「タントラム」に再度見舞われる可能性も無視できない。従って流動性相場の持続性は、最初の利上げとその先のバランスシート縮小懸念を「引き剥がす」コミュニケーションの巧拙にかかっている。

今後のシナリオとしては①利上げ時期を「引き延ばす」ことで時間を稼ぎ、その間に懸念を「引き剥がす」ガイダンスを浸透させるというもの、あるいは②早期に利上げを済ませてしまい、同時にハト派的なガイダンスを出すことで先行きの懸念を緩和するというものが穏当な落としどころとなるだろう。先日発表された10月の雇用統計の結果、および発表直後の市場の反応を勘案する限り、②の蓋然性が高いと判断している。もっとも、こうした政策は「クレジットバブルの予防」という、引き締めの本来の目的と矛盾するため、実際には市場にとってもう一段厳しい内容の政策判断が下される可能性もある。いずれにせよ、「三で割り切れる」(記者会見つきの)FOMCが開かれる月にはシートベルトをきつく締め、その先の2カ月間で訪れるであろうトレーディングチャンスを睨んで潤沢なキャッシュを準備しておきたい。

<小林俊介氏略歴>
1984年生。2007年東京大学経済学部卒業、大和総研入社。グローバル経済・金融市場分析を担当。2011年より派遣留学、米コロンビア大学および英ロンドンスクールオブエコノミクスより修士号取得。在学中、OECD(経済協力開発機構)委託プロジェクトに従事。2013年に大和総研帰任、日本経済担当。

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